『機動戦士ZガンダムII-恋人たち-』

公開から既に2週間近く経ってるんだが、ようやく見てきた。
えーと、感想というか本編以外も含めて所感ですが、
恐ろしく長いし、ネタバレも含むので、どうしても読みたい奇特な人だけどうぞ。

  • 追記:[私信]パンフレットは買えました。


賛否両論あるので、どうかなぁと思っていたけど、
想定を大きく外れることなく、個人的にはそれなりに面白かった。
私が思うに本作への否定的意見は、基本的に以下の3つの観点に由来すると思うので、その観点からの所感を記しておく。

  • 尺(上映時間約90分)が短い(故に詰め込みすぎ、描写不足になっている)。
  • 新旧の作画が入り交じって見にくい(なぜ、オール新作にしないのか)
  • 一部騒がれた声優交替の問題(故に見る前から興ざめ)

まず、尺が短い、ということに関しては、それも確かなのだが、
短い故のスピード感が出ているのも確かだ。
以前、『∀ガンダム』の劇場版前後編が出来た時(あれは各編共2時間10分ぐらいだったか)、
当時、『地獄の黙示録』のディレクターズカット版が世に出て、富野監督は絶賛していたが、
3時間20分は映画として長いと言って、でも、自分の作品はもっと長いわけだから、出
来れば、『∀』ももっと短くしたかったと言っていた記憶がある。


つまり、近年の監督としての富野さんが、1年もののシリーズを総集編とする時、この『∀』を指標に、
長くなっても約4時間半、3部作なら割る3で1作あたり90分と最初から決めていた節がある。
実際、「2時間とかにしようとは思わない」とか、「次の3部も最近改めてまた2−3分削った」というようなコメントを、
雑誌か何かで確か言っていたと思う。
あるいは、実は興行上の問題かも知れないが、いずれにしても、1部90分という強い枷が最初からあったのだろう。
だとすれば、この一連の作品は、あのTV版を各90分でどうまとめているのだろう、
という視点での映画の見方があり得るはずだ。


もちろん、そんな背景事情まで知らない客の方が遙かに多いわけだから、
そんな見方をしなければならない理由はない、もっと分かり易くて楽しいもの作れ、と言うのもアリなのだが、
フォーマットも含め作り手側がそういうものとして、世に出している以上、
客もその辺を含め読解してみせるぐらいの気構えがあっていいと思う。
(『イデオン接触編』に比べれば、全然分かり易いよ)
もちろん、お金を出しているんだから、文句を言う権利はあるし、
文句を言うのも無駄ではないと思うが、いま言って直ぐ修正出来るものでもないからな。



以上を前提にした上で、最初の「尺」の観点について思うところを記すと、
今作は、1本の映画としては、前作「星を継ぐ者」には及んでないと思う。
それは、前作も今作同様端折っていたが、
前作にはシャアとカミーユが遭遇し、ジャブロー降下など本格的な戦争(攻防戦)が始まり、
旧作キャラのシャアとアムロの再会で締めるという大筋で自然な流れがあったし、
特にラストシーンは、1stガンダムの続編としてのZガンダムの序盤最大の見せ場だった。


ところが、今作は前半フォウ(愛人)との遭遇・別離、中盤Zガンダムの受領とファ(本妻)との邂逅を挟み、
後半はコロニー落としとサラ(若い燕)との出会いを絡めつつ、ラストでハマーン登場と、
TVのエピソードを組み替え、流れは整えられているものの、強引に組み替えた流れだから、
その中の部分部分の結合やエピソードの押しがいまいち弱い。
ただ、3部作で言うと、今作は起承転結の承転の部分で、終盤の全体の収束のため、
エピソードを散漫させるところだから、それも仕方ないとも思う。


それに前作と比べると、あくまで弱いのだが、
それでも90分の尺で、あれだけのエピソードをこれだけの流れにしたのは、
やはり編集に関する富野マジック恐るべし、と言わざるを得ない。
コロニー落としを軸にジェリドとマウアー、サラを一片に絡めたのはさすがで、継ぎ接ぎといわれても、
これだけ1カットに拘って流れを整えられる継ぎ接ぎが出来る64歳は他にいないだろう。
というわけで、要は「90分にまとめた事はスゴイけど、単純に比較すると前作に及ばない。
でも、90分毎の中継ぎとしては上々」というところ。


次に第2の観点についてだが、
そもそもオール新作画にしないのは、一番現実的なところでは企画当初に予算が潤沢でなかったのが理由だろう。
ただ、結果としてデジタルチームの手間暇で言うと、新作に匹敵するものが注ぎ込まれているようなので、
それでもオール新作画に途中で舵をきらなかったのは、
優秀な原画マンを多く確保出来なかったか(それも引いては予算だが)、
富野監督のポリシーによるところが大きいと思われる。


改悪といわれる(私は一概にそう思ってないが)「1stガンダム3部作」の「特別編」DVD発売時、
音を5.1CHにしたからって、作画をやり直すつもりは一切ないと言ってた監督だから、
その監督が原作の作品のリファインをその監督にやらせる以上、オール新作画になるはずがない。
まあ、20年前に見ていた人間としては、その作品が劇場版になって、
少しでも新規作画(特にメカ)が見られるだけでも、正直幸せなんだけど。


キャラについては、元々のTV版からして、総作監不在で調和が取れていなかったら、
劇場版で差があろうとも、実にZらしいと思うが。
まあ、新作画と旧作画の元の解像度の差は、気にはならないと言えば、嘘になる。
嘘になるけど、だから致命的にみられないと言うほどでもないからなぁ。
つまり、要は「リソースに限りがあるから、自ずと重点ポイントが限られるのは致し方ないよなぁ」というところ。


あと、富野監督が「この映画は百年残る」云々と言ったことに対して、
上記の観点から「こんな中途半端な内容のものが残るわけないだろう」という意見が見られるが、
監督は「映画の内容が百年残る」とは一言も言ってない。
監督の言わんとするところは、(SWみたいに実写とSFXの合成をやり直すとかならともかく)
20年前と今で制作環境が全く違う作画を近づけるような中途半端で、
手間暇かかる作業をして作るこんな映画は、映画史的に「向こう百年経ってもないだろう」という意味。


最後の「声優交替」の観点については、
(それに関しては、↓の辺から探っていただくとして)
http://upatea.sakura.ne.jp/log/eid3257.html
http://upatea.sakura.ne.jp/log/eid3278.html
個人的に一番違和感あったのは、世上で騒がれる「フォウ」でも「サラ」でもなく、
昔と一緒のキャストのはずの「シロッコ」でした。


TVの時は、「若き」カリスマ指導者みたいな感じだったけど、
映画版、特に今作は最後の最後に立ちはだかる予定の「青年(壮年)悪役」といったところか。
まあ、「シロッコ」に関しては、スパロボの時でさえ違和感があって、
無理だろうなぁとは思ってたけど。
あと、ちょっと「ブライト」さんの滑舌が悪かったかなぁ。


一方、交替した方のキャストについては、正直それほど問題を感じなかった。
件の「フォウ」に関しては、前作上映後の予告編を見た時から、違和感を感じてなかったぐらいで、
個人的に「島津冴子」さんという声優はかなり好きな方だが、
だから、TV版の「フォウ」というキャラが好きだったかというと、
声に艶がありすぎて正直いまいち好みではなかった(フォウファンに殺されそうだ)。


そういう意味では、背景の問題はともかく、今回の劇場版の「ゆかな」さんの声は、
ビジュアルと設定年齢的に個人的には釣り合っていると思う。
ただ、島津さんの艶のありすぎるぐらいのあの声だから、
少ない登場回数でも「フォウ」のキャラが立った面は大いにあるわけで、
そうではない劇場版の場合、キャラが淡泊になってしまった側面は否めない。
でも、フォウが空中を舞うシーンは良かったと思います。


同じような理由で「サラ」にも肯定的だったりします。
巷では、「フォウ」は違和感ないけど、「サラ」はダメという人が多いようだけど。
でも、劇場版の「サラ」は、ポジション的にかなりピックアップされていて、
フォウが淡泊になった分、フォウと並ぶぐらいの比重があると思う。


その劇場版の「サラ」のキャラ性は思うに、男たらしの素質があるんだけど、
本人がまだそれを完全に自覚せずに、シロッコに好意を利用される「少女」、
もっと極端な言い方すれば、恋人(片想い)に報いるために娼婦になることも厭わない、
と思ってしまうような「少女」の部分と、それぐらいしてあげるから相手に男を見せてと誘導するような
2つの相反した心性が同居していると思う。


陳腐な言い方をすれば、「小悪魔」的だけど「脆さ」もある「少女」ということになるのだが、
TVの「サラ」と立ち位置が若干違う上に、その「小悪魔」や「少女」の部分に含まれる微妙なニュアンスと、
(監督は「ブレる危険性をはらんでいる印象」と言っている)
http://www.z-gundam.net/special/interview.html
いまの「水谷優子」さんが合致するか、正直厳しいと思う。
あるいはTV当時からそのニュアンスだったけど、
「水谷」さんが表現しきれていなかった、だから変えたという見方もあるかも知れない。


いずれにしても、じゃあ、変わった「池脇千鶴」は、
その「サラ」を表現し切れているかというと完璧ではない。
というか、アニメ声優慣れした耳では極めて素人っぽく聞こえる。
だが、その素人っぽい手慣れてない感が、上記で挙げた「サラ」の微妙なニュアンスに合うのではないか。
私は正直、この「サラ」なら好きだと思えたぐらいだ。
この手慣れてない感覚を伴う「池脇千鶴」の起用は、思うに『ブレンパワード』の「宇都宮比瑪」&
『∀』の「ソシエ・ハイム」役の「村田秋乃」の起用と通じるような気がする。
あれも、単なるアニメ声優に慣れた連中には受け入れられなかったからなぁ(声優も役者だっての)


以上、「恋人たち」に対する3つの批判的な観点を私の目から見てみたが、
前作よりカタルシスは落ちたが、私にとっては、充分及第点以上だった。
「Z」は5−6年前に映画化の話があって、それがぽしゃって、SEEDの人気と共に企画再浮上、
でも、リソースは限られるから、どんなものが上がるかと少々心配だった私としては、
ここまで見られるものを見せてくれるなら充分。
その上で私の目は、すでに富野監督の新作「リーンの翼」に行ってたりするのですが。
(まだ見ぬ第3部のラストというのも、大きく変わることはないと思ってるから、
過剰な期待はしていないしなぁ)


その他、個人的に良かったなぁと思うシーンを幾つか挙げると、

  • MSの戦闘シーン全般
  • フォウが死んだ後、カミーユが宇宙に上がる一連のシーン。
  • Zやメタスを運んできたファとじゃれ合おうとするカミーユ
  • ヘンケン、ブライト、クワトロ、ウォンが戦略的な会談をする場面で、1人奥さんと子供の映像を見るブライト。
  • エマさんを呼び寄せるために必死になるヘンケン。
  • サラ全般。
  • 劇場版オリジナルの専用カラー機に乗ったハマーン様


しかし、これだけ長々と書いてきたが、
思うに私ってガンダムシリーズや富野作品の中でも、
Zガンダム」特別好きというわけでもないんだよなぁ(ちゃぶ台返し発言ですが)。
ガンダムシリーズの中では5番前後ぐらいだし、富野作品だと7番目ぐらい。
(MSのデザインはかなり上位だが)
それでも、やっぱり「Z」が面白いと思えるのは「三つ子の魂百まで」と、
最近の「ガンダム」が3色ビームとか、密度の薄い話を垂れ流していることの反動だな。